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北京20年目の作家・谷崎光が中国とアジアの本当”をお伝えします。ときどきゲストも!

中国人同士でも中国語方言(上海語、福建語、広東語……)は通じない!

日本で昔、東北と九州の武士がケンカして、おたがい言っていることがまったく通じなかったという話がある。実は中国もともとはそんな感じである。

 

一般に他の地の言葉は中国人でも聞くだけではわからないことが多い。字に書くと現代ではほぼ同じだが、発音はまったく違う。

 

たとえば「私は日本人です」は、北京語だと「ウォ シ リーベンレン」だが、上海語だと「クーズ サンパニン」、広東語だと「ノンハイ ヤップンニャン」! 

ちょっと勉強したぐらいではできるようにならない。

え、みんな意志疎通してるじゃないかって? 

 

それは、中国政府が「普通語(北京語)」の普及に勤めたからである。

私が中国に来た2001年で、普通語普及率は約50%だった。

すなわち、”中国人”の半分は、中国語ができなかったのである。できるのは、自分の地元の言葉だけである。

 

若者は学校教育で多くが標準語ができるようになっているが、老人同士なら出身が違えば外国人同士になる。

 

大学の寮の部屋に親が子供あてに電話してきた。ちょうどその学生がいなくて、他の地方の学生が受けたら、聞き取れたのは名前だけだったりとか、はては都会に出た自分の子供の孫と会話がまったくなりたたなかったりする。

 

バイリンガル”を

商売に利用する

 

一方で、言葉違いを商売の武器にすばやく利用するのが中国人。

ちなみにバイリンガルというのは便利であって、ビジネスの味方同士でナイショ話ができる。

  

北京の商店でも出稼ぎ者の店なら、値段交渉でこれをやっていた。

客がどのぐらいアホか、わからない言葉で相談しつつ、騙すのである。

方言を勉強しようにも、中国の方言は事実上、何千もある。

 

 大きく分ければ、北京語、上海語、広東語、客家語、ビンナン語…などの7つだが、それがさらに果てしなく細分化されており、たとえば福建省の土楼地域なら、土楼ごとに違い、その言葉でどの土楼出身かわかるといわれる。

以前、夜行列車の中で中国人たちが、土楼ごとに並んで、言葉が変わっていく様子を実演してくれたことがあった。

 

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福建省土楼 筆者撮影

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内部は、今も何百人も住む集合住宅。敵からの攻撃を避けるためこういう形になった。

 

私の故郷大阪の大阪でも、船場言葉、その周辺、天王寺あたり、河内では全部言葉が違う。生まれたときから30すぎまで市内のほぼ同じ場所にいた私は、同じ大阪内でも言葉でかなり正確に出身地を当てることができる。

 

そしてそれぞれの地域の大阪弁をその系統にしたがって真似することもできる。が、他エリアのネイティブにはならない。私が河内弁をしゃべったら、河内者には一発でニセモノとバレる。逆に他地域の人が大阪人の真似をしても一発でわかる。

 

つまり中国は、北京以外、たいていの人が偽の大阪弁をしゃべっている状態なのである。

いいところは、北京では自分の中国語をヘタだと思っていても、他の地域に行くと、みな外国語になるので、急に話が通じたり自分が上達したように感じるところだろうか。

 

上海、広州などの大都市でも、古くからの地元民たちは基本的には”上海語””広東語”を話す者同士で帮(結束のかたいチーム)をつくる。

現地ならではの商習慣がいろいろあり、駐在員でも、現地語ができないとなかなか入り込めないという。

 

 

 ちなみに北方は基本的に広範囲で北京語が通じるが、南にいくほど多言語になる。したがって南方の若者はまったく違う言葉を、二、三種類平気で話すことも多い。

 客家の家に生まれて、親との会話は客家語だが、学校では普通語で授業を受けそれで話す。卒業して広州で就職し、広東語もできるようになった。軽く切り替えてそれぞれ話す姿は、日本人から見るとすごいが、中国では珍しくない。

 

また庶民も、そのへんにいる誰かを通訳に立てたり、意思を何度も確認したりと、「言葉の通じない人」に慣れている。

つまり(地元の)一言語しかできない人も多いが、多言語者もまた多く、他言語者の多くは若いホワイトカラーである、というあたりはヨーロッパに似ている。

 

おばあちゃんはイタリア語の方言しかできないが、大学に行った孫は英語もフランス語もできる、という感じだろうか。

中国の普通語(標準語)は、ヨーロッパの人にとっての”共通外国語”である英語と近い。

 

中国はたとえば四川省だけでも人口は一億ぐらいいて様々な四川語をしゃべっている。それぞれのエリアが一つの国みたいなものでその集合体、と考えると理解しやすいと思う。ヨーロッパの言語がある程度、共通性があるのも同じ。

 

2017年、普通語普及率は73%まで上がった。

逆に言えば、今でもやはり”地元の言葉”しか話せない人が約3割いる。もうたいていが老人である。

13億が総バイリンガルになる日も近いだろう。

この育った環境も多言語、という中国人たち、海外への適応力は高いのである。 

 

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