他の写真を見ても、家族は素朴な雰囲気であり、別に暮らしに過分な費用がかかるようには見えない。
リストラされても、給与は下がるかもしれないが、仕事は見つかるだろう。ローンは家を売れば、値上がり分の余剰も出る。
一説にはマンションを二軒持っているという話もあり、何をやっても、家族が生きていくことはできる。
妻についても、真偽はわからないが仕事をしており、かなりの収入という話も出てきた。
やがてZTEの本社の管理層から「『欧建新には精神疾患があった』と言った」という情報が流れ、これにはネット民も大反発した。
「そんな人が、ファーウェイで8年、ZTEで6年、仕事ができるわけがない!」
中国の、いくつかのメディアが、家族と関係者に再度取材を始めた。
妻は、中国の毎日経済新聞のインタビューに答えて証言した。これは都市部の中流ホワイトカラーが読む新聞である。
まず欧建新の、深セン中興網信科技有限公司との労働契約は2014年に2度目の更新を受け、2019年の夏まで残っていた。
そして2017年12月1日に、リストラではなく社内内部のトップ同士の争いで、直属の上司から退職を勧告された。その後、人事部と金額保障の話になった。
会社には社員持ち株制度があった。社は一株2元で引き取ると告げたが、昨年辞めた社員は4元あまりで売っている。これ以外の保障の話はなく、会社と欧建新の間で話はつかなかった。
この件で、欧建新は事件の前日と3日前に、昔の同級生の金融関係者に2度電話している。聞いたのは会社が提示した価格は正当かどうか、である。その友人いわく、
「私は、会社の財務状況を知りたいと返事した。工商局と上場企業のオープンソースを探したけれど、(中興の子会社である)深セン中興網信科技有限公司のものはなかった。欧建新もずっと会社に要求していたが、断られていた。彼とは9年間、ずっと仲が良かった。彼は落ち着いた誠実な人で、激情に駆られるような人ではない。何が起こってそんなことになったのか、わからない。非常につらい」
ご存知の通り、親会社のZTEは2016年3月にアメリカから輸出禁止措置を受けている。
関連性はわからないが事件は渦中の2017年12月に発生している。
ZTEは当時、つぶれかけていたともいえる。
ZTEのウィキペディアからの引用
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2016年3月:アメリカ合衆国商務省が同社及び子会社に対して、2010年にイラン政府系通信会社や北朝鮮に禁輸措置品を納入し、またその事実を隠ぺいしたとして輸出規制措置とした。
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2017年3月:上記の措置に関連し、アメリカ合衆国商務省は最高10億ドルの罰金の支払いと、社内のコンプライアンス教育の徹底(社内コンプライアンス・チームの設置)、今後6年間にわたり規制を順守したか年次報告を行うことなどの司法取引を行うことで、輸出規制措置を実施しないことで合意した。
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2018年4月16日:アメリカ合衆国商務省は、前年の司法取引で合意した内容の一部を同社が実施していなかったことが判明したとして、米国企業に対し同社への製品販売を7年間禁止すると発表した。
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2018年7月2日 : 香港・蘋果日報は中国国内関係者の話として、ZTEが近く経営破綻し、国有通信企業の烽火通信科技集団[9]がZTEの全株式を買収したとする一方、ZTEの幹部は経営破綻と国有化の動きを否定したと報道した[10]。
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2018年7月13日:米商務省はZTEが制裁解除の条件である罰金の支払いや経営陣の刷新を終えたことにより、ZTEに科した米国企業との取引禁止の制裁を解除したと発表。
◆妻の話す当日の様子
◆彼は、黙って頷いて出て行った
奥さんの話す、当日の様子はこうである。
日曜日、欧建新は家で休んでいた。
そして午前9時過ぎに、彼女に言った。
「上司が会社に来いと言っている。会社の中にもめ事があって、オレはたぶんその犠牲になるわ」
「あなた、もう会社辞めるんじゃない。もめ事が何の影響があるというの?」
「いや、そのもめ事の影響でオレは会社を去るんだ」
「あなたみたいに優秀で、南開大学の修士まで出ていて、ファーウェイで8年、ZTEで6年仕事の経験もあって、もっといい仕事に変えたらいいのよ」
奥さんがそう答えたら、彼は、黙って頷いて出て行った。
午後1時過ぎに、突然電話を受け、欧建新が会社の高層ビルから墜落死したと知らされた。
中興の管理層が言ったといわれる、精神疾患については、
「まったくそんなことはありません。退職勧告を受けてからも、彼は冷静でした。経歴からすれば仕事は見つかるし、9歳の息子に英語を教え、2歳の娘に本を読んであげていた」
条件が前ほどいいかどうかはともかく、私も仕事は見つかると思う。
中興(ZTE)の本社は、毎日経済新聞の取材に対してこれは子会社の深セン中興網信科技有限公司の事件であり、そちらで処理をする、すでに警察も介入していると回答した。
ただ当初からこの事件は、他殺の可能性のないものとして取り扱われている。
一方、直接の勤め先であった深セン中興網信科技有限公司は、確かにそういう事件はあった、今、遺族の方々とも密接に連絡をとり、適切に対処している。なおリストラについては収まっており、営業活動はすべて正常である。巷で言われるような大規模なリストラはなかった、と答えた。
記事は、労働契約の一方的な解除と持ち株の社への強制的回収は、労働法の違反である、我々はこの事件について引き続き調査を続けると結ばれていた。
しかし、読者からのたくさんのコメントの中で、一番支持を集めていたのは、
“事は、そんな簡単じゃないわ”
である。
その後、情報はさらに入り乱れ、初期の報道も消されたり転載で書き換えられたり、こういう人が墜落死したという事実以外、真実は誰にもわからない。
中国企業は、官や闇社会の侵入、その他、外国人にはうかがい知れない非常にブラックな部分を抱えていることが多い。
そして中国人は“法の保護”のない世界で、暮らしている。
中国のIT関係の発展のすさまじさは、北京に18年暮らす私も認める。
しかし、その“中国スゲー”は、さまざまな“中国コエー(怖えー)”に支えられていることをお忘れなく。
もっとディープな話はこちらで!
谷崎光 ダイエーと中国の合弁商社勤務を経て作家・ジャーナリスト。 2001年から北京在住18年目。著書は松竹で映画化の『中国てなもんや商社』(文藝春秋)『男脳中国 女脳日本』(集英社インターナショナル)『日本人の値段 中国に売られたエリート技術者たち』(小学館)など20冊。北京大留学。Amazonは https://amzn.to/2YnyA9U noteはhttp://urx.blue/QnQH
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