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北京20年目の作家・谷崎光が中国とアジアの本当”をお伝えします。ときどきゲストも!

中国で怖いのはファーウェイだけではない。共産党員8000人が最前線で働くあのIT企業の裏側(上)

 アメリカVS中国の貿易戦争が話題になっている。ファーウエイの製品の安全保障問題も注目され、さまざまな制裁合戦に発展した。

しかし中国在住18年の私にとって、正直なところ何を今さら……、である。

もちろん中国ではすぐれたIT企業もサービスも次々出てきている。

しかし、中国における企業の鉄則はたったひとつである。

 

時価総額アジア・トップクラスIT企業

◆テンセントの「怖さ」

 

中国・深セン――。

 

 ここに、アリババを抜き抜き、トヨタ自動車を抜き、2017年度の時価総額、アジア・ナンバーワンのIT企業のテンセントがある。

いわずとしれたウイチャットの会社である。現在、このソフトを使っている中国関係者は多いだろう。

 

その光り輝く新築の本社ビルの前には、

 

『党といっしょに創業(起業・イノベーション)』

の、モニュメントがある。

 

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テンセントの前の”共産党と一緒にイノベーション”のモニュメント

 

この言葉の本当の怖さがわかるのは、かなりの中国通である。

 不況で多少、スピード感が失せたとはいえ、中国IT企業のくりだすパンチは面白いものが多い。

 たとえばスマホの地図に、恐竜がでてきて案内してくれたり、サービスも遊び心があるものが多い。

 

中国企業は、ニッポンのように、会社のひな壇の上の方に昭和の妖怪が密集してはいない。「下手なチャレンジなどしてオレの経歴に傷をつけるな!」と、若者をジャマする人はいないのである。

 

いや、中国はもっと怖い妖怪が並んでいて、「いろいろ開発してや~」とささやいているのだが、確かに若者は多く、かつ実力主義。トライ&エラーのお国柄。

ここのところ、かなり減ったとはいえ、今もアメリカを含めて世界中から流れ込む資金。国がやれと言ったら、採算度外視でGO! の姿勢。

まあファンドのお金、使い切るだけ、のスタートアップ企業も多かったが、その裏には中国的事情もたくさんあったのだろう。

 

 中国の鉄則は、ただ一つ。

 

 “すべては党が管理する”

 

である。

 

どんな企業のどんなイノベーションも、ある規模になれば、党の後押しなしには行われていないし、最後は全部、党のものになる。

 

今の中国がイノベーションを押す理由は、もちろん経済発展もある。しかし本音は軍事力の強化、人民の管理に有効、つまりは自分たちの独裁維持に役に立つからである。

 

 いいですか。中国ではドローンという”空飛ぶ武器”の開発も、スマホでピッという金融業務も、党の了承なしに、勝手にはできないのである。

 

◆中国のIT企業に

◆わんさかいる党員

 

テンセントは深センで生まれ育った、もっとも深センらしい会社といっていい。

 

初期は、中国の元・国民的SNSのQQやオンラインゲームで伸びた。

 

今は、10億人が使うウィーチャット(中国版のLINEのようなSNS)と、それに付随したウィーチャット支払いで、アリババと中国の“スマホでピッ”市場を二分している。

 

2018年4月2日の共産党員ネットの報道によれば、テンセントには約8000人の共産党員がいる。これは社員数の約23%にあたる。

 

テンセントは就職にも党員を優先しており、2017年に就職した1800人の大学生のうち、1200人が党員だった。

 

ネットの第一線で、SNSの内容管理をしている社員の85%が党員である。

 

つまり詐欺であるとか、黄色(アダルト)であるとかだが、一番大事なのは反政府発言を消す仕事である。

先日の天安門事件30周年でも、厳格に管理をされていた。

 

◆中国庶民は

習近平のアフリカ援助に反対

 

ここ何年か、中国の庶民の間でも反習近平の人は増えた。

 

庶民は物価高や、給料200年分などという天文学的数字になった不動産にやっぱり怒っているし、医療保険や老後保障はまだ始まったばかりで大半の人は享受できない。

 

 なのに「覇権を目指してアフリカに金ばらまくかー」「えーかげんにせー」というわけである。

 

一方、SNSやネットの情報を回す方も、政府に見張られていることはよくわかっていて、「消される前に早く見てね」の言葉が添えられていたりする。

その言葉通りに、1時間ほどで情報が消されたりする。

 

 いわゆる陳情や抗議映像も結構あるのだが、こういうのは、政府からすると飛び火するとヤバい。中国は広く、複数の火の手が上がると、消せなくなるのである。

 

例えば、北戴河会議であったり、なにか大きな政府のイベントがあるときは、動画アプリからの他の媒体へのリツイートもできなくされることも多い。

 

 こういう動画アプリの会社は、たいていテンセントやアリババが出資している。今や、中国の大IT企業は、投資によって、巨大なITグループ企業を創り上げている。

つまりトップ企業を押さえれば、間接的に多くのIT企業に党のコントロールが効くのである。

 

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テンセントのマスコットキャラクターであるペンギンが、共産党のマークの入ったジャージを着た写真は、なかなかにシュールである。

 

企業の中の党組織

◆IT企業には続々と出来ている

 

党員が多いのはテンセントだけではない。

 

北京本社の京東商城約1万3000人。深セン本社のファーウェイは、鳳凰科技の2017年の報道では2007年の時点で早くも1万2000人いる。

現在ははっきりしないが、党企業だから全員じゃないの、とジョークを言われるぐらい多く、実は杭州のアリババがまだ比率が低いと言われている。

 

企業にかかわらず組織の中で、こういう党の影響力や執政能力を増す仕事を、党建(ダンジェン)というのだが、IT企業に続々とその指揮をする党委が出来ている。

 

軍背景と言われるファーウェイとZTEには、昔からあったが、2008年、アリババの党支部が党委に代わり、2010年、新浪に党委設立。

 

2011年にテンセント、京東、2013年に網易、2014年に捜狐、2015年に捜狗、小米、楽視網、同程、途牛、2016年にライブ動画の斗魚、タクシーアプリの滴滴出行、2017年にシェア自転車のofo……、とほとんどのIT企業を網羅、という感じだろうか。

 

党組織自体は労働組合も含めて、中国ではある規模以上の企業には日系含む外資、中国系かかわらず、たいていあるのだが、党のIT企業への管理は年々強まっている。

 

かつ、それがメディアでアピールされたりする。

 

ジャック・マーも昔は共産党批判をしていたが、だんだんやらなくなった。

そして共産党の聖地である、延安詣でをする姿が報道されるようになった。これはテンセントや京東のCEOも行って、報道されていた。

 

中国の中の人はこれを、脅しと受け取る。

 

 “歯向かってもムダだからな。もうおまえらのこと、何でも知っているからな”というわけである。

 便利にはなったけれど、ふと気づくと、もう逃げられない息苦しさがある。

 

街中にAI監視カメラはある。

 

 ほとんどすべての支払はスマホでしている。移動のチケットの購入もすべてスマホ決済で記録が残る。

 

 今日、どこでご飯を食べたとか、誰と電話したとか、SNSで何をいつもしゃべってるとか、ネットで何を検索しているとか、何を買ったとか、今どこにいるとか、あの時どこにいたとか、全部丸見えにすることは簡単に可能である。

 

しかもそれがIT企業と連動して、いつでも政府に情報が渡る。

 

もともと大陸の中国人は日本人のように、出国も国内の移動も本当は100%は自由ではない。見えないオリの中にいるのが彼らだが、それが強化された。

 もう中国で、テロも天安門事件もできないのである。

 

銀聯に“収編”された

◆アリババのアリペイ

 

中国では、アリババのジャック・マーが引退した翌日に、アリペイが既存の銀行の共通決済手段である政府系の银联(ユニオン・ペイ)と契約をし、事実上、取り込まれたという報道があった。

 

最初に報道したのは、“上海証券報”でそれを新華社が伝聞という形で転載している。

 

 ネットでは、

「豚を太らせてから食べる政府!」

などと話題になった。

 

ジャック・マーの引退は、アメリカとの貿易戦争ですばやく逃げたとか、いろんな原因が言われているが、私は共産党がよくやる、トップを飛ばして、企業を思いのままにする状態ではないかと思っている(私の憶測ですよ!)。

 

中国では市場のニーズから生まれた民間企業でも、ある段階で共産党に飲み込まれる。もし創業者が党の管理を嫌がれば、創業者を飛ばして乗っ取る。

 

 

 つぶされる場合もあるが、「金の卵」を産む会社をみすみすなくす必要はない。

 

 トップを変えて、ほとんどの企業の中にある党組織を強化すればそれでいい。

 

 中国で暮らした18年間、その実例をイヤというほど見てきた。

 街の中でも、小さな店が突然理由なく営業停止になったり、繁華街の一等地の大ショッピングセンターが完全に準備も終わり開店間近のまま5年も6年も放置されたり……。

 

しかも、全く報道はされなかったりする。

 とにかく、中国は理不尽で奇怪なことが多いのである。

 

ただ一つ確実なことは、党にさからったら何もできなくなるということである。

 

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